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東京高等裁判所 平成5年(ネ)1884号 判決 1997年5月29日

亡小山洋訴訟承継人控訴人

小山泰史

外一六名

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

伴昭彦

被控訴人

渡辺誠作

外二九名

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

中村洋二郎

主文

一  原判決中、亡渡邊泰介訴訟承継人被控訴人渡邊久之に関する部分を取り消す(ただし、同被控訴人の共有の性質を有する入会権の確認を求める訴えは、取下げにより終了した。)。

二  亡渡邊泰介訴訟承継人被控訴人渡邊久之の請求を棄却する。

三  本件その余の控訴を棄却する(ただし、亡渡邊泰介訴訟承継人被控訴人渡邊久之を除く被控訴人らの共有の性質を有する入会権の確認を求める訴えは、取下げにより終了した。)。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人らと亡渡邊泰介訴訟承継人被控訴人渡邊久之との間においては、控訴人らに生じた費用の三〇分の一を同被控訴人の負担とし、その余を各自の負担とし、控訴人らとその余の被控訴人らとの間においては、全部控訴人らの負担とする。

五  原判決別紙物件目録の3、4及び14を別紙物件目録記載のとおり更正する。

事実

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  主張

一  当事者の主張は、次に付加訂正するほかは、原判決事実摘示(原判決五枚目裏一三行目から八枚目裏一二行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

二  付加訂正

原判決六枚目表六行目、九行目の「滝沢部落」の次にそれぞれ「住民」を加え、同裏七行目の「公祖公課」を「公租公課」と改め、同七枚目表二行目の「入会団体であり、」から同三行目までを「滝沢部落住民を構成員とする入会団体であるところ、」と改め、同四行目の「右入会団体の構成員」を「滝沢部落住民」と改め、同六行目の「原告番号」の次に「(訴訟承継のある者については、承継前の者。以下同じ。)」を加え、同七行目の別紙原告目録の一中、原告番号6の「渡辺」をいずれも「渡邊」と、原告番号11の「渡辺」をいずれも「渡邉」と改め、同一〇行目から一一行目の別紙原告目録の二中、原告番号25、26の「渡辺」をいずれも「渡邊」と改め、同八行目及び同裏一行目の「入会団体の構成員」をそれぞれ「入会権を有する滝沢部落住民」と改め、同二行目の次に行をかえて「(四) 原判決別紙原告目録の一記載の渡邊泰介は昭和六一年八月死亡し、亡渡邊泰介訴訟承継人被控訴人渡邊久之(以下、承継前の者の表記を省略する。)が世帯主たる地位を承継し、同原告目録の二記載の酒井竹次は昭和六〇年七月死亡し、被控訴人酒井幸榮が世帯主たる地位を承継し、同原告目録の二記載の重長春夫は平成四年六月死亡し、被控訴人重長浩が世帯主たる地位を承継し、同原告目録の二記載の渡邊末吉は昭和六二年一一月死亡し、被控訴人渡邊正幸が世帯主たる地位を承継し、同原告目録の二記載の渡邊昭三郎は平成元年四月死亡し、被控訴人渡邊周二が世帯主たる地位を承継し、同原告目録の二記載の志田米藏は昭和五八年三月死亡し、被控訴人志田博が世帯主たる地位を承継し、同原告目録二記載の佐久間秀三郎は昭和六一年四月死亡し、被控訴人佐久間富士雄が世帯主たる地位を承継して、それぞれ入会権を有する滝沢部落住民たる地位を承継した。」を加え、同三行目の「滝沢部落」を「共有持分を有すると主張して、滝沢部落住民」と改め、同四行目から五行目の「入会権を有すること及び」を削り、同八行目の「入会権を有すること、及び、」を削り、同八枚目表六行目を「(一) 同3冒頭の事実は否認し、同三(一)は認める。」と改め、同裏六行目の「滝沢部落」の次に「住民」を加え、同九行目の「形」を「形態」と改める。

三  控訴人らの当審における主張

1  本件各土地は、部落住民各戸が米八斗宛を拠出して、それぞれ共同で買受けたものである。仮に本件各土地の共同所有形態が入会権に基づくものであるとすると、部落住民五二名の有する共有登記名義に係る本件各土地の筆数は部落住民が平等であるべきであるのに、実際には人によって土地の筆数に多寡が生じていて、その理由を説明することができない。

2  本件各土地の共有名義人である部落住民が、本件各土地に関する結約証を作成した後わずか二〇年もたたないうちに、本件各土地の権利の譲渡をしており、特に、本件各土地の権利関係に最も詳しかったと思われる渡辺源太も、明治二五年には、本件各土地に関する権利を譲渡していることから、一般に、本件各土地に関する権利が入会権ではなく通常の共有権であると考えられていたことは明らかであるし、権利の譲渡を許さないとの合意もなく、仮にあったとしても暗黙のうちに廃止されている。また、結約証による権利の制限は、合意に基づく債権的制限にすぎず、入会権を根拠付けるものではない。

3  本件各土地の共有者が、分家に対して承認した権利は、本件各土地の使用収益をする権利にすぎず、その所有権(共有持分権)の取得を認めたわけではない。

4  仮に本件各土地に関する権利が共有の性質を有する入会権であったとしても、近代的私所有権制度の導入に起因し、急速な商品経済の発展の結果、入会権は解体消滅して共有権に変質したものであることは明らかである。本件各土地に関する結約証が作成された明治一三年からすでに一〇〇年以上を経過し、当時の利用形態は今日においてはその片鱗さえも存在しないのである。

5  被控訴人渡邊久之は、滝沢部落から転出しているから、その権利が入会権に基づくものであるのであれば、本件各土地に関するその権利は消滅した。

四  控訴人らの主張に対する被控訴人渡邊久之の認否及び反論

控訴人らの主張5のうち、被控訴人渡邊久之が滝沢部落から転居したことは認める。

同被控訴人は、会社勤務の都合上、やむなく住民票を埼玉県に移したにすぎない。同被控訴人の本籍地は滝沢部落にあり、滝沢部落内にある家屋敷や田畑をすべて相続し、滝沢部落の区費を納め、家の電気、ガス、水道、電話等もそのままの状態にしてあり、年に数回滝沢部落の家に戻っており、いずれは故郷の滝沢部落に戻る意思である。部落からの転出離脱は、家屋敷等を含めて部落から引き払って戻らない状態と意思が客観的に確認できる場合をいうのであるから、同被控訴人の場合には、滝沢部落に戻る状態と意思が客観的に明らかであるから、同部落から転居したからといって、部落から離脱し、入会権としての権利が消滅したわけではない。

第三  証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、原判決別紙原告目録の一及び二記載の滝沢部落住民が、本件各土地について、共有の性質を有する入会権を有していたものと認めるのが相当と判断するものであり、その理由は、次に付加訂正するほかは、原判決理由説示(原判決九枚目表四行目から同一九枚目表八行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決九枚目表四行目の「部落」の次に「住民」を加え、同五行目から六行目にかけての「部落団体による」を「部落住民団体による慣習に基づいた」と改める。

2  原判決九枚目表一一行目の「証拠」の前に「請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがなく、この事実と」を加え、同裏二行目の「二八、」の次に「三一、」を加え、同六行目の「被告小山洋」の前に「訴訟承継前一審」を加え、同一〇枚目表八行目の「公簿」を「地券や土地台帳」と改め、同裏二行目の次に「本件各土地については昭和五四年に渡辺源太外三九名などの所有名義による保存登記がされた。」を加え、同六行目の「各土地が」の次に「、地引帳には渡辺源太外三九名と記載してあるが、」を加え、同一一枚目表一行目の「作業は、」の次に「本件各土地の公簿等の名義人が誰であるかにかかわりなく、」を加え、同五行目、七行目、一二頁裏九行目の「公祖公課」をそれぞれ「公租公課」と改め、同一一枚目裏五行目の「一部を」から六行目を「一部が、それぞれの共有名義に係る本件各土地の筆数の多寡に関わりなく、平等に分配された。」と改め、同七行目の「滝沢部落は、」の次に「町村合併、分村に当たり、」を加え、同一三枚目表五行目の「委員になった」を「委員として賃貸借契約に調印した」と改める。

3  原判決一三枚目裏五行目の「という」の前に「など」を加え、同行の「経由され」の次に「、また、地券や土地台帳にも同様の所有名義とされ」を加え、同六行目の「住民全員」の次に「(明治一三年当時五二名)」を加え、同七行目の「共有名義」から同一〇行目までを「四〇名の共有名義が、そのまま記載されたにすぎない。」と改め、同一四枚目表一行目の「公祖公課」を「公租公課」と改め、同三行目の「登記」の次に「等の」を加え、同五行目の「二3のとおり、」の次に「慣習上、結約証に記載された五二名の者を祖先とする家の世帯主は、本件各土地に関する地位を承継し、それ以外の世帯員が」を加え、同九行目の「滝沢部落」の前に「慣習上、」を加え、同裏二行目の「本件各土地」の前に「慣習上、」を加え、同四行目から五行目の「権利を取得し、」を「平等の権利を取得し、平等に」と改める。

4  原判決一四枚目裏一二行目の「乙二、三、四、七、八、九、一一」を「乙二ないし四、五の一、七ないし九、一一、一七の二」と改め、同一五枚目表四行目の「それぞれ」の次に「部落住民に対して」を加え、同五行目の「なお、乙一は、甲六七に照らして」を「志田庄太郎が明治一九年六月一〇日付で小山彦七に対して権利を売渡した旨の記載された乙一は、小山の肩書住所として記載された「神山村」は明治三四年に発足しているとの甲六七の記載に照らして」と改め、同裏八行目から同一六枚目表八行目までを次のとおり改める。

「また、証拠(甲一の一ないし三、乙二〇、二一)によれば、本件各土地の筆頭共有名義人とされた渡辺源太は、明治二五年、結約証において本件各土地とともに村中持地とする旨定められた土地について、これに関する権利を売却する旨の契約書を作成のうえ、その旨の登記手続をしたことが認められるが、右各証拠のほか、証拠(甲一一、一三、五五、原審における被控訴人志田倉重、同被控訴人渡辺誠作(第二回)、同訴訟承継前一審被告小山洋(第二回))によれば、渡辺源太は、明治二五年ころ、家産が傾いたことから、滝沢部落住民が、便宜渡辺源太名義で登記をしていた村中持地の権利を保全するため、同人からこれを買受ける形式をとって、登記名義を結約証に記載された者ないしその承継人及び分家である滝沢部落住民の名義とした後、部落住民全員でこれを処分したことが認められるから、前記証拠は、結約証に村中持地と記載された土地の持分がすでに明治二五年当時において売買の対象とされたものであるとか、部落住民が本件各土地の持分が売買の対象とされる土地であることを承知していたことを示すものとはいえない。

そして、証拠(乙五の一及び二、六、一〇、一七の一及び二、四二ないし六三、原審における訴訟承継前一審被告小山洋)によれば、本件各土地については、昭和五四年に至るまで保存登記すらされることなく経過していたものであり、昭和五五年七月に、小山末太郎から妹婿で跡取りの小山一徳へ大正一一年六月贈与を原因とし、同時に小山一徳から息子で跡取りの訴訟承継前一審被告小山洋へ昭和五五年七月贈与を原因として、それぞれ持分全部移転登記がされ、また、同年八月に、志田フヂノから滝沢部落に住む志田要次郎へ同月贈与を原因とする持分全部移転登記がされ、あるいは、昭和五六年八月に、石塚惣次郎から中川直太郎へ明治四一年売買を原因とする持分全部移転登記がされ、中川直太郎から中川清への数次家督相続による持分全部移転登記を経て、中川清から控訴人中川直正へ昭和五六年八月売買を原因とする持分全部移転登記がされ、昭和五九年に、石塚與四松から中川三次郎への明治四一年売買を原因として、同人の子である中川喜惣太に持分全部移転登記が経由されたほかには、現在に至るまで、相続登記を除き、権利変動に関する登記は一切されていないことが認められる。

3 しかも、前記二2(五)及び(六)のとおり、本件各土地から得た収益の配分においては、部落住民は、結約証に記載された者の承継人のみならず、その後に部落住民となることを許された分家の者を含めて、いずれも平等に取り扱われており、また、本件証拠上、分家が部落住民の仲間入りをするために、必ず他の部落住民の権利を譲り受けたというような様子は全くないし、他の者の権利を取得したと称する部落住民が、他の部落住民よりもより多くの配分に与かったり、あるいはこれを要求したり、さらには相互の権利関係を調整したりしたような形跡は全く窺うことができない。

4 こうした事情に照らすと、滝沢部落住民であった者が、過去において、本件各土地に関する自己の有する権利を他に譲渡したという事実が数件あったとはいえ、そのうち、明治時代のそれは、譲渡した者がすでに部落住民としての権利を失った後のことであり、承継前一審被告小山洋関係の贈与は、世帯主の承継に伴うものであるし(なお、昭和五五、五六年の志田要次郎及び控訴人中川直正への各持分移転登記の事情は定かではないが、譲受人が部落居住者であるし、譲渡人と同姓の者であることからみても、本件各土地に関する権利が自由に取引きされていたことを示すような態様のものとは思われない。)、いずれの譲渡の場合についても、それらの権利を譲り受けたという部落住民がその譲受けに係る権利を主張して他の部落住民よりも多くの使用収益権を主張したような事情は全く窺うことができず、かえって、部落住民は、これまで常に平等に本件各土地を使用収益してきているのであるから、いずれの譲渡も、世帯主の承継に伴うもののほかは、部落住民が関知し、了解することもなく行われ、部落住民が権利の移転の効力を承認していないものと認められる。

したがって、滝沢部落住民間においては、本件各土地に関する自己の権利を他に譲渡処分することは慣習として許されていないものというべきである。」

5  原判決一六枚目裏一行目の「公祖公課」を「公租公課」と改め、同三行目の「部落住民」の前に「慣習上、」を加える。

6  原判決一六枚目表五行目の「抗弁について」から同一二行目までを削り、同一七枚目表四行目の「部落団体による」を「部落住民団体による慣習に基づいて」と改め、同五行目から六行目の「滝沢部落」の次に「住民」を加え、同行の「換言」から同一〇行目までを削る。

7  原判決一七枚目表一〇行目の次に行をかえて、次のとおり付加する。

「七 抗弁について

控訴人らは、仮定的に、本件各土地に対する入会権は解体消滅し、共有権となった旨主張するところ、証拠(甲五一、乙一八、二二、二三、三七の一及び二、原審における被控訴人渡辺誠作(第二回))によれば、昭和二八年に、本件各土地の使用収益をめぐる本家の一部と分家との間の確執から、本件各土地の所有形態が共有であるか総有であるかの争いが起こり、ついには訴訟(新潟地方裁判所新発田支部昭和二八年(ワ)第五七号共有持分確認請求事件)にまで発展し、部落住民を二分した争いとなったこと、また、本件訴訟提起後、電力会社に対して本件各土地の一部を賃貸借する等の契約について、控訴人ら側と被控訴人ら側とで別々に契約を締結したことが認められ、更に、本件各土地について昭和五四年になって公簿上の各共有者名義で保存登記が経由され、昭和五五年以降、売買ないし贈与を原因とする持分全部移転登記手続が数名について行われる事態に立ち至っているなどの事情があることは前認定のとおりである。

しかしながら、右各証拠および甲第三号証によれば、昭和二八年に起きた訴訟は、結局部落での融和を図るため取下げにより終了し、その後、滝沢部落では、新分家の加入を承認する部落総会を開催して、従前から分家として活動していた者について正式に部落住民として承認したことが認められ、このような事実のほか、部落住民が本件各土地を平等に利用し、義務を負担しているという本件各土地の使用収益形態の本質に特に大きな変化があるとまで認めうる証拠はなく、このような事実に照らすと、一審原告らが、昭和五六年に新潟地方裁判所新発田支部に本件訴訟を提起する(平成三年新潟地方裁判所へ回付)など、再び滝沢部落住民を二分して総有と共有の争いが生じていることを考慮しても、前掲事実だけでは、本件各土地に係る入会権が当初の形態から変容しつつあるとはいえても、入会権がすでに解体消滅して共有権に変じたとまで断定するには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人らの抗弁は理由がない。」

8  原判決一八枚目裏五行目の「明治」を「昭和」と改め、同一九枚目表六、七行目に「欄の年」とある次にそれぞれ「ころ」を加える。

二  次に、証拠(甲八〇ないし八五、九四)によれば、請求原因3(四)の事実のうち、被控訴人渡邊久之に関する事実を除く事実が認められるから、被控訴人酒井幸榮、被控訴人重長浩、被控訴人渡邊正幸、被控訴人渡辺周二、被控訴人志田博、被控訴人佐久間富士雄は、いずれも、本件各土地に関する権利を世帯主たる地位の承継に伴い承継取得したものというべきである。なお、証拠(甲八一の三、一〇〇、一〇三)によれば、被控訴人重長浩は、平成五年一一月に仕事の都合で滝沢部落からさして遠くはない新潟市に転居したけれども、同被控訴人は、いずれ部落に戻る予定であって、引き続き部落の消防団に加入して正月の出初式や練習にも参加し、年に何度も部落に帰っており、滝沢部落内に残った実家には母と妹が住み、部落の共同作業には母が代わりに出たりしていることが認められるから、同被控訴人は、新潟市に居住しているとはいえ、滝沢部落から転出したとまではいえず、同被控訴人の転居によってもその権利に消長はない。

ところで、証拠(甲七九の一ないし三、九六、九九)及び弁論の全趣旨によれば、承継前一審原告渡邊泰介は昭和六一年八月一九日死亡し、その長男である被控訴人渡邊久之が同人を相続し、併せて世帯主たる地位の承継に伴い本件各土地に関する権利を承継したことが認められるところ、同被控訴人は、昭和六三年、勤務の都合上、東京都新宿区に転居し、平成三年四月には埼玉県春日部市に転居して現在に至っていること、同被控訴人は家屋敷などの遺産をすべて相続したが、平成七年二月に母が死亡した後は、滝沢部落内にある家は空き家状態となっていることが認められ、これによれば、同被控訴人は、遅くとも平成七年二月には、自らの意思に基づき、滝沢部落からはるか遠隔の地に居住していて、滝沢部落住民の一員として日常的に共同で行うべき義務を履行することができなくなったものというほかはないから、滝沢部落から転出したものと認めるのが相当である。同被控訴人は、将来は部落に戻るつもりでおり、お盆や正月を含めて年に四、五回は帰省し、区費も引き続き納めていることなどを主張し、前掲証拠中にはこれに添う部分があるけれども、それだけでは、同被控訴人が、滝沢部落から転出したとの前認定を左右するに足りない。したがって、同被控訴人は、遅くとも平成七年二月には、本件各土地に関する権利を失ったものというべきである。

三  次に、控訴人らの当審における主張について判断する。

1  控訴人らは、本件各土地は、部落住民各戸が米八斗宛を拠出して、それぞれ共同で買受けたものであると主張し、乙第一二号証にはこれに添う記載があり、また、前認定の事実のとおり、地券や土地台帳、さらにはこれに基づく登記簿にもその旨の記載があるけれども、前認定の事実によれば、乙第一二号証の右記載部分は、地租改正に当たって、村中持地が公有地とされないために民有地であることを示す目的で作成されたもので、地券や土地台帳、登記簿の記載もこれに基づいたものにすぎないと認めるのが相当であるから、それらの点は、何ら前認定を左右するものではなく、他に前認定を左右するに足りる的確な証拠はないから、控訴人らの右主張は、採用することができない。なお、控訴人らは、本件各土地の共有登記名義の筆数が部落住民によって多寡を生じていることから、平等であるべき入会権では説明することができないと主張するが、土地台帳や地券の名義については便宜四〇名を記載したにすぎないとの前認定の事実によれば、その点は、部落住民が本件各土地について共有の性質を有する入会権を有すると認めることの妨げとなるものではないことが明らかである。また、証拠(乙五の一、一七の二)によれば、本件各土地について、石塚惣次郎と中川直太郎間及び石塚與四松と中川三次郎間の明治四一年の各売買契約を理由として、買主の相続人が、売主の相続人に対して、その持分移転登記手続を求める請求に対し、その登記手続を命ずる判決がされた事実が認められるが、契約当事者の相続人間における持分移転登記手続請求訴訟にすぎず、前認定の事実関係に照らすと、その点は前認定を直ちに妨げるものではないというべきである。

2  次に、控訴人らは、本件各土地の共有名義人である部落住民が、本件各土地に関する結約証を作成した後わずか二〇年もたたないうちに、本件各土地の権利の譲渡をしており、渡辺源太も、明治二五年には、本件各土地に関する権利を譲渡していることから、一般に、本件各土地に関する権利が入会権ではなく通常の共有権であると考えられていたことは明らかであるし、権利の譲渡を許さないとの合意もなく、仮にあったとしても暗黙のうちに廃止されており、また、結約証による権利の制限は債権的制限にすぎないと主張する。しかし、その譲渡は、いずれも、滝沢部落を転出した者が、部落住民の了解しない態様の下で行ったものにすぎないし、これを取得した部落住民が自らの使用収益権が他の部落住民よりも多いなどと主張したような形跡は全くなく、平等に使用収益をしてきたことなどの前認定の事実に照らせば、ごく一部の者の間で権利譲渡の事実があるからといって、本件各土地に関する権利が通常の共有権であると考えられていたとは到底解し難い。また、渡辺源太の譲渡については、その家産が傾いたことから、いわばその名義を部落住民全員に移転しておくためにしたものにすぎないことは前認定のとおりであるから、右の点は、何ら控訴人の右主張を裏付けるものではない。なお、本件各土地に関する権利の譲渡を許さないとの合意があるというべきことは前認定のとおりであるし、それが部落住民全体で黙示的に廃止されたと認めうべき証拠もない。さらに、入会権者間における権利の制限が、新たに入会権者となった者らにも当然に等しく及んでいることからすれば、その制限が単なる債権的なものにすぎないと解することは相当ではないというべきである。

3  また、控訴人らは、本件各土地の権利者が分家に対して承認した権利は、本件各土地の使用収益をする権利にすぎず、右権利者はその所有権(共有持分権)の取得を認めたわけではないと主張するが、部落住民として加入を認められた者が有する権利が他の部落住民のそれと差異があると認めるべき証拠はなく、かえって、新たに加入した者は、その後、他の部落住民とともに、その一員として、新たな分家の加入を認めてきたなどの前認定の事実に照らしても、新たに部落住民として加入を認められた者の権利は、他の部落住民のそれと平等のものであったことは明らかというべきであって、単なる使用収益権を付与したに止まるものと解することはできない。

4  さらに、控訴人らは、急速な商品経済の発展の結果、本件各土地に関する結約証が作成されてからすでに一〇〇年以上を経過した現在、すでに本件各土地の入会権は解体消滅した旨主張するけれども、右主張が理由のないことは、抗弁について判断したとおりである。

四  以上の認定によれば、被控訴人渡邊久之を除く被控訴人らは、本件各土地に共有の性質を有する入会権を有する部落住民であると認められるところ、請求原因4の事実は当事者間に争いがないから、右被控訴人らが右入会権に基づくその使用収益権を有することの確認を求める請求は理由があるが、被控訴人渡邊久之の請求は理由がない。

したがって、被控訴人渡邊久之の請求を認容した原判決は不当であるから、本件控訴は右の限度で理由があるが、その余の被控訴人らの請求を認容した原判決は相当であって、右部分に関する本件控訴は理由がない(なお、被控訴人らの共有の性質を有する入会権の確認を求める訴えは、取下げにより終了した。)。よって、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九五条、九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。なお、原判決別紙物件目録の3、4及び14の記載には明らかな誤りがあるから、これを別紙物件目録記載のとおり更正する。

(裁判長裁判官清永利亮 裁判官小林亘 裁判官佐藤陽一)

別紙物件目録

3 新潟県北蒲原郡豊浦町大字滝沢字道婦壱参四七番壱

山林 七七弐平方メートル

4 同字壱参四七番弐

山林 五六五平方メートル

14 新潟県北蒲原郡豊浦町大字滝沢字甚平沢壱四弐九番

山林 壱弐壱弐七平方メートル

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